香り緑茶とは

「香り緑茶」の定義は今のところないので、どんなお茶なのか?私の考えをまとめてみようかと思います。

■ 香り緑茶誕生のきっかけ

静岡県農業技術研究所茶業研究センター(茶研センター)では製造研究をする上で、夕方摘んだ葉を生葉コンテナに保管し、翌日の朝から製造試験をするケースがあります。ある朝、生葉室のコンテナをのぞき込むととってもいい香りがしています。品種は「さやまかおり」でした。(勝野氏談)

摘まれて製茶場に運ばれてきたお茶の葉の保管において、たまたま運よくお花の様な香りを発することがあり、それを萎凋香(いちょうか)といいますが、それを意図的にかつ安定的に作ることが出来ないか、しかも流動的に大量処理する製茶機械を開発したいという思いから

勝野氏は茶研センターで研究課題として2007年に取組みをはじめました。

■ 萎凋香(いちょうか)とは

摘まれた葉は時間の経過とともに萎れていきます。その過程でお茶の葉は水分欠乏ストレスに対抗して体内で酵素反応を起こし、ある特定の代謝から副産物として様々な芳香が発生します。それを「萎凋香」といって、萎凋香は、適切な保管(温度.湿度など)の下であれば芳香となるし、そうでなければ葉痛み臭となります。緑茶では鮮度を大切にして作り、爽やかな新緑の香りに価値があるので、萎凋香は敬遠され、鮮度を保つために送風装置が付いた生葉コンテナが開発され、葉痛み臭はほとんど無くなりました。それと同時に萎凋香のお茶も無くなりました。「昔しゃあ、一晩置いて揉んだお茶で甘い良い香りのするお茶があったっけなあ」とおじいちゃんがよく言うのを聞きます。摘んできた葉を板間に広げて、呼吸熱で葉焼けしないようたまに葉を手で撹拌して、なんてことをやっていた時代は稀に良い萎凋香が出ていたことでしょう。

■ 産地で価値観がちがう「萎凋香」

品種により良い萎凋香の出安い品種とそうでない品種があり、萎凋特性のいい品種として「さやまかおり」などがあります。埼玉県で育成された品種は系統的に萎凋特性のいいものが多く、埼玉県では萎凋香品評会があるほど萎凋香は茶の別の価値として長いあいだ扱われてきています。

■ 香り緑茶の香り発揚は低温萎凋

酵素反応によっておこる現象なので、温度が25℃と15℃では反応スピードが違います。高めのほうが反応スピードが速く、香りは短時間で発生しますが、香りの蓄積量は低めの温度で時間をかけてじわじわと萎凋したほうが多いので、

茶研センターの研究では、香り緑茶の香り発揚には葉温15℃で16時間萎凋が良いとしています。

■ 茶研センターで「香り緑茶」の開発

茶研センターで目指したのは、大量生産型の香り高い緑茶

香り発揚のメカニズムは、台湾の烏龍茶の萎凋に準ずるもので、萎凋工程において、茶葉に水分欠乏ストレスを与えるだけでなく、茶葉を揺青撹拌(ようせいかくはん:葉を傷めないよう優しく撹拌)することで、茶葉にとっては命に係わる大きなストレスとなり、防衛反応として酵素の働きで生体化学反応がおこり、副産物として香りが発生します。

そこで茶葉に撹拌刺激を与え、しかも大量処理できる機械として開発されたのが、カワサキ機工の香り揺青機(ようせいき)で、ドラム回転式の流動処理機でした。

摘採→生葉コンテナ投入→加温処理(葉温25℃-30分)→循環(香り揺青機)→コンテナで静置2時間→循環(香り揺青機)→コンテナ静置2時間→循環(香り揺青機)→

コンテナ静置8時間

コンテナ静置は葉温15℃の低温下で萎凋、2時間毎3周循環して揺青機で香り発揚を促します。

■ 香り緑茶は蒸し製それとも釜炒り製?

茶研センターでの香り高い緑茶開発の研究課程において、「静岡型発酵茶」があります。

2007年勝野氏の研究課題で始まった香り高い緑茶開発は2014年(平成26年)茶研センターでプロジェクト化され「静岡型発酵茶」という形で実を結びます。

静岡型発酵茶は、茶園の直掛け被覆、揺青萎凋、釜炒り製というセットでした。

被覆効果で、水色は鮮やかな緑、おまけに整腸作用のあるMMSという成分も生まれ

花様の香りがするスッキリ甘い香り緑茶が出来上がりました。

ただ静岡県での普及を考えたとき、製茶場に釜炒り機はほとんどないので、蒸し製で作ることを前提に製造研究が重ねられ、蒸し製香り緑茶が誕生しました。

そんな経緯から茶研センターでは、蒸し製も釜炒り製もどちらも香り緑茶と捉えています。

■ 「釜炒り製香り緑茶」と「烏龍茶」とどこが違う?

香り緑茶は、「緑」を大切に作ります。

烏龍茶にも発酵度の違いで多種あり、台湾の包種茶のように軽発酵で作り透明で緑黄色のお茶もあるので、香り緑茶を釜炒りで作るとそれに近いものになります。違いをあえて言うなら水色。香り緑茶の水色は「緑」です。萎凋工程の揺青でもなるべく葉を痛めないよう葉の熟度に合わせて揺青かくはん強度を調整します。

■ 開拓茶農協の香り緑茶は蒸し製です。

台湾のウーロン茶は私も大好きで、確立した製造技術に畏敬の念をもっておりますが、台湾名茶「包種茶」と特長の違いは蒸し製で作る香り緑茶で明確に現れます。

蒸し製の特長は「蒸して」「揉みながら干す」ことで、味わいは日本の緑茶のようになります。香りは花様の香りがぷ~んと香り、味わいは緑茶のようでも鼻に抜ける香りは緑茶と違う果実系の香りで、まさに茶研センターが目指した「香り高い緑茶」が蒸し製香り緑茶です。

価値が香り基準の烏龍茶や紅茶のように、香り緑茶は春摘み、夏摘み、秋摘みとシーズン毎の味香りの違いを愉しむことができます。

■ 品種の面白さ

開拓茶農協では香り緑茶に取り組む上で、プロモーション商品として「花ここち」をつくりました。品種は「あさつゆ」「つゆひかり」のブレンドです。あさつゆのとがった香りをつゆひかりが円く整えてくれます。

「くらさわ」という品種は香り緑茶にすると甘やかな香水のようで素晴らしい香りです。

「香駿」は華やかな芳香で、ハーブのような気品漂う名品種です

「さやまかおり」「みなみさやか」他「」やぶきた」でも香り緑茶にすると、それぞれとても面白い香りを愉しむことが出来、香り緑茶製法では、香りに特化したお茶だけに、香りにおいて品種の差は明確に表れ、すべての品種においてこれからのチャレンジが楽しみです。




SAMURAI teafarm     牧之原山本園

牧之原台地伝統の「特蒸し茶」(深蒸しをさらに深く蒸した茶)、香りにこだわる「べにふうき和紅茶」、新製茶技術により特殊製造された「香り緑茶」を牧之原大茶園で作っています。明治2年、牧之原台地に入植した徳川幕臣であったご先祖様が台地に茶を植えてから、代々大切に茶園を守り育てています。

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